英語教育学サブプログラム 概要

「修了生から寄せられた声」にジャンプ
「お知らせ What's New」に戻る

英語教育学サブプログラムの紹介

国内外を牽引する研究と伝統が1つに

 英語教育学は、外国語としての英語の習得や指導に関して理論と実践を統合した学術的研究、および教室における指導者養成研究を行う分野である。
 これまで本学では、人文社会科学研究科では英語教育研究者の養成を中心とする一方、教育研究科では高等学校英語教員を目指した実践的な人材育成を行ってきた。しかしながら、理論と実践の統合が求められる英語教育学においては、その区分が必ずしも明確ではない。学位プログラム化を機に、同じスタッフが指導してきた両研究科の英語教育学分野を統合することにより、より高い次元の大学院教育を目指すことにした。

国内外を牽引する研究と伝統が1つに 前期2年後期3年で博士号取得を目指す

前期2年後期3年で博士号取得を目指す

 人文社会科学研究科の英語教育学分野は、平成18年3月に前身である現代文化・公共政策専攻で初の博士号取得者を出して以来、後の現代語・現代文化専攻と合わせて、この10年強で課程博士号35 名、論文博士号1名、修士号68 名を送り出してきた。(2024年3 月現在)。原則として修士号は前期2年で、博士号は後期3年で取得できるよう指導にあたっている。
 これまでに、大学専任教員36名をはじめとして、中学高等学校教員ほか多くの有為な人材を輩出してきた。各研究分野において一握りの極めて優秀な院生だけが選ばれる日本学術振興会特別研究員への採用も22名を数え(DC1 が12名、DC2が8名、特別研究員PD採用1名、海外特別研究員採用1名)、極めて高い採択率を誇っている。また、日本学術振興会育志賞受賞、伝統ある英検研究助成への入賞、国内主要学会(全国英語教育学会、大学英語教育学会、外国語教育メディア学会、日本言語テスト学会など)での学会賞受賞、国際学会(英国応用言語学会)での最優秀ポスター発表賞などの受賞歴も誇る。
 一方、教育研究科では、昭和54年度に修了生を出して以来、全国各地の中学高等学校教員と102名の大学教員を輩出してきた。修了生は、優れた授業実践者に送られる「若林俊輔奨励賞(語研)」や全国英語教育学会教育奨励賞を受賞するなど、日本の英語教育界をリードする存在として活躍中である。

理論と実践の統合

 現在社会が求めている実践力のある英語教育学研究者、あるいは理論的な土台を持つ英語科教員を輩出するため、研究者養成教育と実践的な人材育成をプログラム内に統合し、本プログラム担当教員も積極的に理論と実践に関わり、その統合を学生と共に体感する。
 英語教育学は、理論と実践を統合する学問である。授業実践を行うにあたっては、実践の根拠となるものを研究成果から導き、普遍の真理として一般化して説く必要がある。一方、研究においても、教室という実践現場における目的を見失わず、難しい理論や成果をやさしく噛み砕いて伝える努力が必要である。このように教室現場の実践から真摯に学んで理論を極め、かつ理論に裏付けされた確かな実践の提案が出来る人材を養成する。
 育成を目指す人材像は、理論と実践に基づいた授業力と教材開発能力を有し、その基盤となる英語教育学における幅広いテーマの研究力、また研究指導能力を身につけた者。さらに、高度専門職業人としてのリーダーにふさわしい確かな英語力と授業力を有し、ICTも活用しながら英語教育学の高度な教員養成・研修を担う能力を身につけた者である。
 課程修了後の進路としては、大学・短大・高専教員、研究所研究員、教育行政職員、高等学校教員、各種テスト作成機関、教育関連会社などの専門職が開かれている。
 修得すべき知識・能力は、以下の通りである。

(前期課程)

  • 学校内外の英語教育諸課題に、同僚と協働し、中心となって問題解決にあたる能力
  • 高度専門職業人としてのリーダーにふさわしい、確かな英語力と授業力
  • 教室内外の問題意識や課題を的確に把握し、自ら改善や解決を試みる力
  • 後期課程における研究者養成のための基礎的な研究能力

(後期課程)

  • より高い資質を有する英語教員の養成・研修を担う能力
  • 理論と実践に基づいた授業力と教材開発能力
  • 基盤となる学問分野の研究推進力
  • 幅広い研究テーマの研究指導能力

理論と実践を統合するカリキュラム

 本プログラムは、以下のカリキュラムをもとに、現職教員および英語教育への明確な意欲を有する者を対象に、英語教育学分野の高度な教員養成と研究者育成を目指す

(前期課程)

  • 英語教育学IAB~XIIAB 研究と実践の土台となる理論を学ぶ。
  • 英文法研究I, II 授業実践の土台となる英文法を学ぶ。
  • 英語圏の文化・文学I, II 授業実践の土台となる文化文学を学ぶ。
  • 英語教育学演習I~XII 確かな英語力と授業力の修得を目指す。
  • 英語教育学研究IAB~IVAB 英語教育学の研究手法を学ぶ。
  • 英語教育学論文演習I, II 修士論文執筆を目指す。

(後期課程)

  • 英語教育学特別論文演習IAB~IIIAB 博士論文執筆を目指す。

 なお、前期課程には14条対応科目を設け、後期課程は指導教官による論文演習のみとするなど、現職社会人が特定の時間または時期に講義・研究指導を受けることを可能とした。

これまでの博士論文(一部)

(*旧組織である現代語・現代文化専攻言語情報分野のものを含む)

  • Effects of Providing Known Associates on Intentional Vocabulary Learning: Comparing Synonyms, Co-hyponyms, and Lexical Collocations
  • The Flexible Lexical Inferencing Processes of Japanese EFL Learners: A Think-Aloud Study
  • Processing and Interpreting Unknown Words With Morphological and Contextual Information Among Japanese EFL Learners: Focusing on the Semantic Transparency of Morphemes and Learner Proficiency
  • Effects of Task Conditions on Spoken Performance in Retelling
  • Generation of Knowledge-based Inferences in Japanese EFL Learners’ Reading Comprehension
  • Understanding Causal Relations and Learning From Text in Japanese EFL Readers
  • Constructing Mental Representations of Textual Topic Structure Among Japanese EFL Readers

主たる就職先・進路

(*旧組織である現代語・現代文化専攻言語情報分野のものを含む)
前期課程修了生:博士後期課程への進学、中高の英語教員、政府官庁など
後期課程修了生:大学教員など

●修了生から寄せられた声(肩書は執筆時のものです)

千葉大学教育学部 准教授 星野 由子

 私は他大学の卒業直後に、筑波大学人文社会科学研究科に進学しました。私が所属したのは5年間の一貫性の博士課程だったので前期・後期のように分かれてはいませんでしたが、後期課程まで進学したい人のご参考になれば幸いです。

 まず、授業についてですが、1年目ではさまざまな授業を受講しました。教育研究科に所属する院生さん十数名と一緒に履修する授業もあれば、履修人数が1~2人という授業もありました。内容は英語教育の実践に関する授業、英語帝国主義に関する授業、タスクに関する授業、英語の論文の形式を学ぶ授業など多岐に渡り、さまざまな側面から英語教育について学ぶことができ、この時に学んだことは、私の英語教育に関する知識の土台となりました。1年目で必要な授業の単位はほぼ履修が終わりましたので、2年目以降は自分の研究により近い授業のみを履修しました。したがって、2年目以降には英語論文を書く際の内容に関する授業や、言語習得論に関する授業を履修しました。

 研究については、大学院の合格直後から指導教員の先生と連絡を取らせていただき、入学前にも関わらず、どのような論文を読んでおくとよいかなどのご指導をいただきました。そのおかげで入学直後からデータをとって自分の研究を行うことができ、1年目の夏に学会発表デビューをして研究者としてのスタートを切ることができました。2年目には修士論文の核となる研究において、英検研究助成という助成金をいただくことができました。このようにして2年目修了時に修士号を取得し、3年目(後期課程1年目)からは、大学で非常勤講師をしながら研究を進めました。教えにいかなければならなくなった分、研究に使える時間は1, 2年目よりも減りましたが、私にとって初めて大学で教える経験となり、この経歴が大学院修了後に就職する時にも役に立ったと思います。4年目(後期課程2年目)には日本学術振興会特別研究員になることができ、自分が行う研究に自信がつくと共に研究費をいただけたために金銭面の上からも他の大学院生よりも恵まれた生活を送ることができました。このようにして、最終年度の5年目(後期課程3年目)に博士論文を書き上げて大学院を修了いたしました。

 大学院では個人の研究を進めただけではなく、先輩・後輩とも切磋琢磨しながら研究を行いました。先輩が統計の勉強会やテスティングの勉強会を開いてくださった時には、自分1人では読み進めるのが難しい文献を先輩たちと議論しながら読み進めることができました。また、私は1年目から筑波リーディング研究会という会に所属し、そこでは主に英語リーディングに関する研究を読み進めると共に、毎年共同研究を行いました。先輩や後輩と学会発表の準備をしたり、執筆途中の論文を順番に読み合って校正しながら全員で1つの論文を仕上げていく工程を経験することで、論文を読む目を養うこともできたと感じています。私がその研究会のまとめ役を行なった年もありましたが、共同研究を行う機会は大学教員になってからも多くありますので、大学院時代には共同研究を行うための礎を築くこともできました。

 研究環境についてですが、大学院生1人あたりが使えるスペースは、平均的な大学院生よりも広かったのではないかと思います。1人に対して机と椅子が1セット使用することができ、机の広さはパソコンと書籍を広げても十分な広さでしたし、コンセントも個別に確保されていました。また、机には十分な大きさの本棚がついていましたので、購入した専門書などは院生室に置いたままにして、私は主に院生室で研究を進めました。人によっては自宅等で主に研究を進め、授業があるときのみ大学院に来る人もいましたが、これに関しては個人の判断で決めることができます。また、院生室から図書館のデータベースにアクセスすることもできますので、大学図書館が購入している電子ジャーナルについては容易にダウンロードすることができました。最新の論文にアクセスできるということは大学院生にとって死活問題なので、今思うとこれは本当にありがたかったです。私は就職後にすぐに専門科目を教えたわけではなかったので、その大学では私の専門分野の本や論文がありませんでした。そのため、いかに恵まれていた大学院生時代だったのかを実感しました。

 私は幸いにも大学院修了後すぐに専任講師として就職することができましたが、就職活動も院生時代に行いました。早いところは就職する1年半ほど前から公募が出ている場合がありますが、場合によっては指導教官などからの推薦状が必要な場合もあります。就職活動の時にも指導教官の先生には手厚くサポートをしていただき、推薦状を書いていただくだけでなく、志望動機を提出する必要がある場合には事前に見ていただきました。なかなか就職先が決まらず、自分の条件が合う20以上の大学に応募しましたが、最終的に就職先が決まったのは、前述の通り入学前からご指導いただき早めに研究者としてのスタートが切れたこと、共同研究を行うことで業績を作れたこと、非常勤講師としての教歴もあったことが挙げられると思います。

 最後になりますが、私は大学院時代から学会活動にも関わらせていただきました。学会活動を行うことで、学外の先生方ともお話する機会があったり、また他の大学院の院生のみなさんと仲良くさせていただくことができ、横のつながりを深めることができました。大学院生時代に交流があった方々とは、今でも頻繁にやりとりをさせていただいており、共同研究を行なったり研究会で一緒に論文を輪読したりしています。私は大学院を修了してから10年以上が経ちますが、今一緒に研究を行わせていただいている先生方の大半は、大学院生時代にご縁があった方達です。このように、研究環境の点でも、様々な人との繋がりという点でも恵まれている本研究科を、ぜひ多くの方に目指していただければと思います。

上越教育大学大学院学校教育研究科 准教授 長谷川 佑介

 私が上越教育大学の専任教員となったのは2015年の春である。学内外の先生方に「外国語の語彙学習やリーディングの研究をしています」と自己紹介をするたびに、「もしかして大学院は筑波ですか」と言い当てられることが何度もあった。それだけ教育大学の教員には筑波大の出身者や関係者が多く、しかも筑波大学の博士課程で英語教育学を学んで研究者になった先輩たち(そして後輩たち)が数多く活躍しているということである。研究者になるために英語教育学の理論や研究方法を学びたいという方にとって、やはり筑波大学は最も有力な進学先の候補として挙げられるだろう。

 現在勤務している上越教育大学にはJADEというアカペラサークルがあり、多くの学生が在籍している。昼休みなどに売店の近くのスペースでミニ・ライブをしているのを見かけると、自分の院生時代を思い出す。私も博士前期課程(修士課程に相当する2年間)を修了するまでは、筑波大学のアカペラサークルに所属していた。大学院で研究をしつつ学部科目のティーチング・アシスタントなどの仕事もしていたため活動できる時間はかなり限られていたが、とても充実した2年間であった。博士後期課程に進学してからはさらに研究に打ち込んだ。私の博士論文のテーマは、簡単にいえば英単語リストを学習する際に英語学習者が例文から受ける影響を検討するというものである。シンプルなようで、実は非常に奥が深い。外国語の語彙学習に関する先行研究だけではなく、母語や外国語のリーディングに関する先行研究も関係してくるので、関連しあう2つの研究領域を橋渡しするような研究を模索することとなった。

 リーディングに関する最新の研究成果や研究手法を学ぶうえでは、卯城祐司教授が主催する筑波リーディング研究会での経験が大いに役立った。重要文献を読み合って徹底的に議論し、実際に筆記再生課題、視線計測法、反応時間測定などの様々な研究手法を用いて実験を行い、さらには全国英語教育学会での口頭発表や大学英語教育学会が発行する学術誌JACET Journalへの投稿などにチャレンジした。博士論文のための研究を進めながら、まったく異なるデータを用いた論文を共同執筆するというのは本当にハードだったが、それを乗り越えたからこそ現在でも大学教員として研究を続けられているのだと実感する。ちなみに私の博士論文では、語彙学習の際に提示する例文には内容を具体的に思い浮かべやすいものとそうでないものがあり、中級程度の英語力をもつ学習者にとってはそのような例文の質が重要になる場合があるということを報告した。もし筑波リーディング研究会での学びがなかったら、データ収集や分析が満足に行えなかっただけでなく、複雑な実験結果を十分に考察することも難しかっただろうと思う。

 ところで、この原稿を執筆している現在は2020年12月であり、上越教育大学の「長谷川ゼミ」では6名の修論生が英語で修士論文を執筆している最中である。私が紹介したわけではないのだが、語彙学習やリーディングを研究テーマに選んだ院生のなかには、筑波リーディング研究会による共著論文を引用している者も多い。英文を読んで要約するときに心の中でどのようなメカニズムが働いているかとか、多義語を学ぶときに英語学習者がどのようなところで躓くかとか、そういった研究をするならUshiro et al. (2008)やUshiro et al. (2010)を避けて通ることはできないだろう。英語教育学の研究成果をコンスタントに発信し続けることには大いに意味があると実感する。

 もちろん年度によっては、私自身が共同研究のリーダーとなることもあった。私が指揮をとった年度の研究成果をまとめたものがUshiro et al. (2012)の論文である。これは私にとって非常に思い入れのある研究であり、現在、私が上越教育大学の修士課程で教えている英語科教育教材分析演習という授業でも院生に紹介している論文だ。英語リーディングテストの設問を「推論的な力」を試していると思われるものと「字義的な理解」を問うていると思われるものに分け、いわば読みの得意分野が異なる様々な学習者に対して、物語文の読解中に柔軟な読みができているかどうかを検証した研究である。この研究成果を全国英語教育学会で報告した際、質疑応答の時間に専門性の高い質問をくださった先生がいた。質問の主旨は、説明文を用いて測定した読解力を物語文の読みに当てはめて考察することの是非に関するものであり、私たちの研究内容をご理解くださったうえでの鋭い指摘であった。たしか卯城先生や院生の仲間に助けられながら、その日の質疑応答を何とか乗り切ったのだと思う。

 博士後期課程の在籍中は、実家の家族を安心させるためにも、何としても大学院を修了するタイミングで就職を決めたいと思っていた。当然、他の大学院生も同じことを考えているはずなので、わずかなチャンスを掴むためにも各大学の指定様式に合わせて履歴書・業績書をいくつも準備した。研究職の就職活動は本当に運と巡りあわせという要素が大きい。たとえ憧れの就職先(大学や研究機関)があったとしても、その機関が英語教育学を専門とする教員をいつも募集しているとは限らない。それゆえ、たまたま上越教育大学での教員募集の情報を見つけたときには、思わず息をのんだ。もしこの大学に着任できたら、これまでに自分が学んできたことを全て活かして教育と研究に情熱を注ぐことができるだろうな、と想像したりもした。応募書類として用意した履歴書・業績書には、博士論文に関連する個人研究の業績だけでなく、筑波リーディング研究会で仲間と作り上げてきた業績を並べることができた。また、日本学術振興会特別研究員(DC1)としての実績も履歴書に載せることができたので、自分なりのベストを尽くすことができたという自負はあった。

 現在、私の研究室は上越教育大学の人文棟3階にある。あの日の学会で洞察に満ちた質問をくださった先生がお使いになっていた部屋だと思うと、あらためて気が引き締まる思いである。研究者として生きていくためには運と巡り合わせが大切だが、それ以外の多くは英語教育学サブプログラム(当時の言語情報分野)で面倒を見ていただいたおかげで手にすることができたと信じている。

順天堂大学医学部 准教授 藤田 亮子

 筑波大学での私の大学院生活は、大学卒業後すぐに修士課程・博士課程に進学する方々とは少し違うものでした。それは、大学卒業後約8年経っていたことと、0歳から4歳まで3人の子供の子育てをしながら院生生活を送っていたからです。今思い返すと、実家の両親に片道3時間かけて毎週孫の面倒を見に来てもらったり、子供を連れてゼミに参加したり、とよくやっていたなと思いますが、当時はそれほど辛くて大変という思いはなく、充実した院生生活だったと思います。これも、研究を続けていきたいという自分の強い気持ちと、夫や家族を含め、指導教官である平井明代先生やゼミの方々など周囲の方達のサポートがあったからだと思います。

●院生時代の研究生活
 私は、日本の大学を卒業後、アメリカの大学のMATESOL(第二言語教育)の修士課程に進学しました。帰国後に英会話講師、結婚、出産等を経て筑波大学修士課程に入学しました。アメリカでの修士課程は実践重視だったので、入学時、私は研究についてはあまり知識がありませんでした。ブランクもあったため、筑波大学の大学院の授業では、教科書を熟読し、論文をできるだけ多く読んで、同級生についていくことで精一杯でした。

 修士課程では、教育研究科に入学し、音声学、統計学、英文法など様々な授業を履修しました。修士課程は、教育実践と研究に関する授業のバランスが良かったです。実践系の授業では、英文法の構造を深く学び、高校での研究模擬授業も行いましました。統計や論文購読の授業は、研究を進めていくには必須の授業でした。特に統計の授業は、論文作成に必要な統計を、基礎から応用まで学ぶことができました。統計初心者の私が、現在論文を書くことができるのもこの授業のおかげだと思っています。院生の同級生は、多くが大学卒業後に中・高教員を目指して、修士課程に入学した方達でしたが、中学校の現職の先生もいらっしゃいました。同じ授業を履修することが多かったので、和気あいあいとして活気がありました。私は、修士課程在学中から、学内研究会に参加し、博士論文の公開発表会を聴講していました。先輩方のお話を伺うことは、博士後期課程についてや、修士課程終了後の進路についても参考になりました。

 修士課程修了後、研究を続けたいという気持ちが強かったので、現代語・現代文化の博士後期課程に進学しました。後期課程では、授業も引き続き受講しましたが、ゼミと研究会がメインの生活でした。ゼミは隔週あり、自分の研究についての進捗を発表し、指導教官と他のゼミ生から意見をもらいました。ゼミのない週は、ミニゼミでゼミ生と研究について発表し合いました。自分の博士論文のテーマについては、基本的に一人で研究を進めて行くのですが、ゼミやミニゼミで発表することで、自分では気づかない点を指摘してもらうことができ、ゼミはとても重要でした。研究会では、共同研究や論文輪読等を通して、自分の研究テーマ以外のことについても学ぶことができました。大学院での研究生活は、研究の予定を自分で決めていたので、子供の予定に合わせて、大学と自宅両方で、研究を進めることができ、子育てと両立することができました。

●院生をしながらの就職活動
 博士後期課程進学後、同じゼミの卒業生の方の紹介で私立大学での非常勤を週1日しており、実際に英語の授業を行うことで、実践と研究を結びつけることができ、とても良い経験でした。先行研究の結果を基に研究計画をたて、非常勤先の英語授業で実施してみると、学習者の反応が予想とは異なった、ということも多々ありました。また、将来的に大学教員として就職するためには、大学での教育経験を必須条件とする大学が多いので、就職活動にも役立ちました。

 卒業後の就職を考えていた博士課程後期3年生時、同じ筑波大学グローバルコミュニケーションセンター(CEGLOC)で公募があり、応募した結果、幸運にも採用していただきました。1、2年生の英語の授業を主に担当しましたが、出身校ということもあり、就職後もスムーズに担当授業と研究を両立することができました。

 筑波大学では、任期付き採用だったので、現在の勤務校である順天堂大学の公募に応募し、採用されました。現在の勤務校の公募については、同じ筑波大学博士課程卒業生の方から、教えていただいたので、筑波大学は卒業後も卒業生とのつながりが深いと実感しています。

●就職後のこと
 現在は、医学部所属なので医学部の英語を担当しており、1年生の授業は、TOEFLの授業を主に担当しています。1年生は、TOEFL ITPで一定の得点を取ることが進級要件に含まれているので、TOEFL得点アップという明確な目標の下、TOEFL対策をメインに授業を行っています。医学部のクラスは少人数生なので、各クラスで細かい指導を心がけています。2年生では、医学英語の授業を担当しています。問診や患者との対話で注意する点、など基本的な内容を英語で伝える内容の授業です。医学英語については授業準備のために新しく学んでいます。

 筑波大学大学院で学びたいと思いたち、指導教官となる平井生に研究についてご相談に伺ったことが私の筑波大学とのつながりの始まりでした。その後、修士課程、博士課程後期課程を終了後、就職までお世話になり、私にとってとてもつながりの深い大学です。卒業後、他大学で働くなどの経験を経て改めて振り返ってみると、筑波大学の大学院は、教授陣の学生指導に対する熱心さ、授業、ゼミ、研究会の質の高さ、同じ研究科の院生の研究に対する意識の高さ、図書館の蔵書の多さなど、どれをとっても、研究に打ち込むには最高な環境だったと思います。これから入学を検討されている方々は、英語教育学サブプログラム修了時に、この大学院を選んで良かった、と間違いなく実感されるでしょう。

埼玉県立伊奈学園総合高等学校 教諭 尾島 巧

●大学院進学を決めた理由
 みなさんこんにちは。2018年度に本大学院を卒業し、現在埼玉県で高校の英語教員をしております尾島巧と申します。僕は大学院進学をする際、進学か就職か、ギリギリまで迷っていたことがあり、その時の経験や大学院で学んだこと、そして就職した現在、大学院での経験がどのように役立っているかということを今回みなさんにお伝えできればと思います。

 僕は大学に入学した当初、自分が大学院に進学するなんて少しも考えていませんでした。教員になるための教員免許は4年間で取得できますし、ほとんどの教員が大学を卒業後にそのまま就職していると聞いていたからです。そんな僕が大学院への進学を考えた一番の理由は「今やっている自分の研究を納得のいくまでやってみたい」という気持ちがあったからでした。1,2年生の間は必修科目が多いため、専門的な内容が中心になってくるのはどうしても3年生からになってしまいます。僕は3年生からゼミに入り、先輩方から少しずつ研究のいろはを教えてもらいながら自分の研究を進めていきましたが、自分の学びたいこと、知りたいことを追求する生活はとても刺激的で充実したものでした。

 しかしやはり2年という短い年月では実験を終えるので精一杯になってしまい、卒業論文ではいろいろな点が未解明のまま、終わってしまいました。そして自分の研究生活がこのような中途半端な形で終わってしまうのは将来後悔するに違いないと思い、大学院進学を決意しました。当初は4年で卒業するつもりだったので、大学4年生のときには教員採用試験と大学院入試を受験し、幸いなことにどちらの試験にも合格することができました。僕の受験した埼玉県では、教員採用試験に合格した際、大学院に進学するのであれば採用候補者名簿の登載期間が延長される猶予制度があったため、それを利用して大学院では自身の研究に専念することができました。

●院生時代の研究生活
 大学生活と大学院生活で大きく異なる点は、1つ1つの物事に対する深め方ではないかなと僕は思います。例えば、授業を例に挙げると、大学院の授業数は大学と比べると少ないのですが、1つ1つの授業の専門性が全く異なり、同じ先生の授業であっても専門的なことをより深く学ぶことができます。

 また、僕は恵まれた環境で研究を行うことができていたのだと思います。24時間使用可能な院生室、周りにはいつも丁寧に指導してくださる先生・先輩方がいて、様々な苦楽を共に経験してきた同期の仲間たちがいました。院生時代の研究生活は、決して楽なものではありませんでしたが、今振り返るととても充実したものだったと思います。博士課程の先輩方も含めた場で自身の研究の進捗を発表し、アドバイスをいただく。それを踏まえてさらに改善していく。こんなにも1つのテーマについて限界まで追及していく機会は今まで経験したことがありませんでした。また、国内外での学会発表も経験させていただきました。自身の研究成果をその分野の専門家を前に発表する、これは大学院に進学したからこそ経験できたものですし、そのような恵まれた機会はなかなか得られるものではありません。

●院生をしながらの就職に向けた活動
 先ほどお話しした通り、僕は大学4年生のときに教員採用試験に合格し、採用候補者名簿の登載期間が延長される猶予制度を利用しました。そのため大学院生時代は就職活動をする必要がありませんでしたので、ここでは僕が就職に向けて行っていた活動について紹介させていただきます。

 2年後に教員になることを見据え、僕は非常勤講師として附属高校に勤務しました。週に1度、土曜日に4時間だけでしたが、実際に教壇に立ち、授業をした経験は就職した今でも生きている場面が多々あります。大学院に進学することで、2年間のブランクが空いてしまうことを進学前は危惧していたのですが、非常勤講師をすることでそれは回避できたように感じます。

 また、僕は英語教育に関して研究していたため、大学院で学んだ理論をすぐに実践できるということも大きなメリットでした。非常勤講師は教員免許を持った人しか務めることができないため、これは大学院に進学したからこそできたことだと思います。

●就職後のこと
 最後に、大学院で学んだことが就職後どのように生きているのかということについて「研究に関すること」、「研究以外のこと」の2点に分けてお話ししたいと思います。

 まず研究に関することについてですが、僕は英語教育について研究していたため、大学院で学んだことが授業を考えるうえでとても役に立っています。例えば、第二言語学習者の学習プロセスを学んだことで、生徒たちがどのようなところで躓くのか、どのようなことを難しいと感じるのかをある程度予測することができます。また、授業中における様々な活動についても、理論を学んだことで、なぜその活動が必要なのかを根拠をもって説明することができます。目的が明確になることで、生徒たちもモチベーションを高めた状態で活動に取り組むことができているようでした。もし大学院に進学しなければ、日々の業務に追われながら、それぞれの活動の理論まで準備しなくてはなりません。しかしそれははかなり困難なことだと思います。僕自身、大学院で学んでいなければ「なんとなく良さそうだから」という理由で日々の活動を選んでしまっていたかもしれません。

 研究以外で就職後に生きていることはたくさんありますが、その中でも特に今の生活に役立っているのが「考える力 (思考力)」であると僕は思います。「1つの物事ついてたくさん時間をかけ、限界まで考える」ということは大学院に進学しなければ経験出来なかったことです。この経験を経て、僕は常に物事の本質は何かということを考える姿勢が身につきました。そしてこの姿勢こそが昨今話題になっている思考力に繋がるものであると思っています。

 このように、様々な経験をしたからこそ、今の僕はあるのだと思いますし、この経験は今後の生活でも役に立つものであると確信しています。大学院だからこそ味わうことのできる、様々な経験をみなさんにも味わっていただきたいと思います。

内閣官房事務官 鈴木 偲歩

●院生時代の研究生活
 大学院時代は、①英語教育における現状の課題点を挙げる、②関連する先行研究を精査する、③先行研究の限界点を指摘する、③仮説を提唱する、④仮説を検証するために必要な実験を実施する、⑤実験結果より考察し、今後の研究への示唆を提示する、という研究のプロセスの中で、日々試行錯誤していました。

 ①と②については、日本語に訳されていない外国の文献も含めて、膨大な量の先行研究がある中で、自分の仮説に関係する文献、かつよりオーソリティがある(引用数が多い、日本の教育現場の状況に近い等)文献を探し、わかりやすく自分の言葉でまとめる必要があります。したがって、情報検索や要約に必要なスキルが磨かれたように思います。

 また、③と④については、仮説検証に必要な手法や結果を分析するために、教育の研究とは直接関係ないように思われる統計の英語論文も読み込み、統計ソフトを用いて客観的にデータを分析する機会をいただいていました。私のゼミでは、外国語の教員を目指す学生が多く所属していましたが、英語で統計関係の論文を読み、自分が行う実験の分析に取り入れるなどして、皆統計処理のスキルが高く、幅広い専門性を身に付けていました。

 さらに、⑤については、先行研究及び自身の仮説と実験結果との相違点を考察するために、論理的思考力を養うことができたと思います。先行研究とほぼ同じ手法で実験したにもかかわらずなぜ結果が異なっているのか。対象者が英語母語話者と英語学習者で認知プロセスが異なるのからか。そうであれば、両者においてどのような認知プロセスが異なるのか。教育学の枠組みを超えて、認知心理学、言語学などの様々な学問を横断して思考する営みは、かなりの労力と時間は必要になりますが、今後に活かされる貴重な経験だったと感じています。振り返ってみると、大学の4年間だけでは、十分な議論はできなかったと思います。

 元々の大学院への志望動機は、理論と実践をつなぐ人材になりたい、そのためには十分に理論を勉強する時間を確保したい、と考えたためでした。教育だけでなく、様々な分野において、理論と現場において齟齬が生じる場面があると思います。しかし、例えば、教育現場において、理論では数十年も前から効果的と言われている指導方法を、現場の教員は活用していないということがあります。現場の教員は、日々授業の準備や部活動、保護者の対応、担当教室のマネジメントなど、最新の論文を読んだり、学会に参加したりする時間を確保することが難しいため、そもそも「知らない」ということも十分あり得ると思います。しかし、「知っていても活用しにくい」という問題もあるかもしれません。その理論を知ったところで、通常の授業にどのように活用したらいいかわからないなど、現場特有の課題がある可能性があります。そういった現場の声を考慮しつつ、理論を活かした活用方法の案を提示するなどして両者の齟齬を埋める人材は、どの分野でも必要だと考えています。実際に、大学院では、学部生の時よりも理論について深く学ぶことができました。現場に出る前に、教授やゼミの先輩方・同僚のご指導をいただきながら研究のプロセスに従事できた時間は、大変貴重だったと感じています。

●院生をしながらの就職活動
 先で述べさせていただいたように、就職活動においても、研究プロセスの中で日頃から問題意識を持ち、自分の意見を述べる習慣がついていたので、小論文や面接等、急な問いかけにも特に焦ることなく対応できたと思います。

 また、私は、公務員と民間企業の両方において就職活動をしていましたが、どちらにおいても大学院生だからとネガティブな反応を受けることはありませんでした。むしろ、専門分野について興味をもってくださり、「ある分野でとことん突き詰める訓練ができている人は、どの分野においてもそのスキルが活かされ、活躍できる」と、英語教育に関係ない分野においても活躍を期待してもらえるようなお言葉をいただくことが多くありました。

●就職後のこと
 現在従事している公務の仕事においても、特に政策立案に関わる業務では、社会問題を取り上げ、好事例等を参考に解決策を検討していく過程が研究プロセスと似ているように思います。そのため、就職後も特に違和感なく業務に従事できています。就職活動中にいただいた言葉とも関連しますが、知識を蓄えるだけでなく、深く考え、自分なりの答えを出しきる経験は、どの職業に就いたとしても十分生かされるものだと肌で感じています。AIと共存する今後の世の中でも求められる能力だと思います。  現場に出ると、慣れない生活で目の前のことに追われ、自分の問題意識と向き合う時間が取りにくいです。そのため、現場に出る前に、大学院などで理論を学び、自分の問題意識を見つめ、現場ですぐに戦力になれる人は大変貴重だと思います。

●最後に
 大学院での研究生活は、オリジナリティを求めるあまり、「孤独」というイメージがあるかもしれませんが、私はそうは思いません。周りの教授や先輩方、同僚はそれぞれの専門のプロであり、研究の中身は異なっていても、研究プロセスのノウハウを丁寧に教えてくださいます。また、学会を通じて他の大学院の教授や学生からご助言をいただくこともできます。専門家にすぐ相談できる恵まれた環境の中で、自分の思考を深めていく経験はかけがいのないものです。ぜひ興味のある方は、挑戦してみてください。